オッチャン鉄ちゃんの足のむくままタイトル
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旅めぐり脱線百話:A-029列車

つま恋の精霊・2

no.054●15.03.18
メイン054写真
  ◎深い山あいを流れる"大井川"を鉄橋で渡る「元・近鉄特急」。(抜里~川根温泉笹間渡)

 " 東の 野にかぎろいの 立つみえて かへり見すれば 月傾きぬ "

ときは平安のむかし。ふたたび京の都より遠く、遠淡海、上ツ毛野への出役を命じられた橘 為仲は、昨年に続き又しても遠路はるばる、寂しい一人旅を強いられる事となった。
今回もまた、あの山沿いの雑草生い茂る、官道とは名ばかりの寂しい小道、東海道の旅であった。

 煌々と明るく照り輝いていた月が、西の夜空に傾きだした頃、為仲はようやく小夜の中山にまでたどり着いた。
「おお、この辺りまで来ることができれば、もう安心じゃ。
約束の期日に遅れることもあるまい。
 それに、この大樹の下なら、夜露をしのぐ事もできるであろう。
どれ、旅寝の床に就くとするか……」

 為仲は疲れた身体と棒のようになった脚を、柔らかい下草の上にどっと投げ出したときであった。
 ふと見ると、こんもりと繁った木立の陰に、何やらうずくまる人影が見えた。そのうえ、微かな声で
「どなたか…、どなたか存じませんが、お助けくださいまし……」
と云う、か細い女の声がした。

「どうされた!?……私は橘 為仲ともうす者だ。決して怪しい者ではない」
為仲は急いでその声のほうに近づくと、月の光に照らされた女の顔は、まだ17、8才ほどの、それは、それは、美しい娘であった。
「ああっ、どなた様かは存じませぬが、私は京の小間物屋『千成屋利助』の娘でツルと申します。
 店の手代の佐七とともに駿河の叔父のところに向かうため、東海道を旅して参りましたところ、小夜の中山の手前で、佐七を見失ったのでございます。
 そのうえ、私は小さな沢に脚をとられてケガをしてしまいました。
どうか、どうか、お願い致します。あなた様をまちがいのない方と信頼しておりますゆえ、東の空が明けるまで、私をお側において下さいまし……」
 娘は大きな瞳で為仲の顔を見あげると、寒さで凍りついた手で、逞しい為仲の手を何度も、何度も、強く握りしめるのだった。

「おおっ、このような山中で、さぞ心細かったであろう……もう大丈夫じゃ、安心いたせ」
 為仲は冷え切った娘の身体を、優しく抱き抱えた。
「なんと、氷のように冷たい身体じゃ、これはいかんっ、この濡れた着物を脱いで、私の夜具をお使いなされ」
「はい…」
娘はコクリとうなずくと、寒さに震えながらも、一糸まとわぬ素裸になった。
「私は横を向いておるゆえ遠慮はせずとも良い。早くこちらへ…」
「はい」と娘は、両の手では隠しきれないほどの、豊かに盛り上がった真っ白い乳房に、小さな手を当てながら、ソソっと為仲のとなりに横ずわりになった。
「ああっ、恥ずかしゅうございます」
娘は顔を赤らめると、消え入るような声で云った。
「恥ずかしがらなくても良い、さっ、これを…」
為仲はササっと自分の着物を脱ぐや、下帯まで、震える娘の身体に掛けてやった。
「私は、すぐそばで横になるゆえ、安心いたせ」
「はい、有難うございます。……あら、……何かしら、腰のあたりに何か硬いものが……。
 大木の根でございましょうか、太くて、長いものが……。エイっ、エイっ。
まぁ、憎らしい。どんどん太くなりますわ……。
あらっ、よく見れば、大きな、ふっといキノコ!それになんて立派なカサでしょう!先っぽが夜露にジットリと濡れて、おいしそうっ!!」

 朝から何も口にしていない娘は、そのツボミのような小さな唇をソッと開くと、思わずキノコの先っぽをパクっと口に含んでしまった。
「ううっ、ううう~っ!これ、娘ご、舌を、舌を絡ませるでない!
……おうっ、おうっ!もう我慢がならぬっ!イっ、イク、イク~っ!」

為仲は月にむかって、ググっと左手を伸ばすと、ピクピクと小刻みに震えだし、やがてウウウ~っと大きな唸り声をあげると"あ~~~っ"という絶叫とともにガックシと、その場に伏してしまうのだった。(終)


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◎高々と見上げるばかりの、遥かな頭上を行く列車。(抜里~川根温泉笹間渡)

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◎深い渓谷を渡る「元・南海電車」の前には、トンネルが待ち構える。(埼平~千頭)

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◎大井川鉄道は、まさに"鉄橋"と"トンネル"の鉄道である。(埼平~千頭)

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◎ゆったりとした川沿いを走る。(福用~大和田)

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茶畑の脇を走る「元・京阪特急」。大井川の下流は有名なお茶の産地だ。(五和~神尾)

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「元・近鉄特急」もお茶に埋もれるがごとく走行する。(川根温泉笹間渡~地名)

◎写真の人物はイメージです。文中の登場人物とは一切関係ありません。
◎大井川鉄道・本線(撮影/2005.12~2006.05 Cr/2012.07.04)


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