オッチャン鉄ちゃんの足のむくままタイトル
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旅めぐり脱線百話:A-028d列車

はぐれ雲
その4

no.053●15.02.04
      ◎晩秋の昼下がりを、のどかに走る列車。(北一色~野一色)


 "センセ、何してるの?"
ボクは何度か、その言葉を口に出しかけました。そやけど、ノドの奥がつまってしもて、なかなか声になりませんでした。

 そのうちセンセは下を向いたまま'うん、うん'と、まるで布団の陰にいる誰かに、うなずくようなそぶりをしはったんです。そして、むっくりと身体をおこして、スラリとした長い脚を布団の陰になった、ここからでは見えへん大事そうなものを、そぉ~と跨ぐと、中腰の姿勢でしゃがみはりました。それは、まるで女の子がおしっこをするみたいな格好やった。それから、自分のお股の下にある、何か棒みたいなものをソォ~っと握りしめると、ゆっくり、ゆっくり腰を下げていきました。
 'アアッ…'とセンセの口元から、まるでとろけるような艶めかしい声が、ため息とともにこぼれ落ちました。ボクにはその声がまるで天国にでもいる不思議な夜の鳥のさえずりに聞こえました。そして、センセはまっ暗やみの中でも、うっすらと白く白く輝く、ふたつの大きなオッパイを、自分でギュっ、ギュっと何度も強く揉みだしはったんです。

 'ウッ、ウッ…'腰のあたりから何かが突き上げるらしく、センセの身体は大きく上下に揺れていました。センセは揺れるたびに、何度も、何度もくり返し、くり返し、うめき声をあげました。大きく盛りあがったオッパイはタップン、タップンと音を立てながら、右に左に、上に下にと激しく揺れ動きました。もう、どれくらい時間がたったでしょうか。センセの声はだんだん激しく、激しく、なっていくのです。だれかの耳に聞こえたらどうしょうかと、ボクはだんだん心配になってきました。そのうち、アアッ、アアアアッ~~~というセンセの叫び声がしました。その声とともにセンセの身体は、急に力が抜けたみたいにドッと布団に崩れおちたのです。

 突然、ドンドンと二階から階段を下りてくる足音が聞こえました。
「愛子先生!どうしたんやっ……!誰や!誰かいるのか!……あっ、君は山本っ、山本先生……!?」
 たしか二階で寝てはる、院長センセの声やったと思う。
ボクはその声が聞こえたので急いで廊下にとび出し、そお~っと自分の部屋に戻りました。院長センセの声に気づいた何人かの生徒が、眠い目をこすりながら「何かあったん?」と廊下のそばにいたボクに聞いて来たけど
「ううん、何もないよ…」と云うと、みんなはそのまま寝てしもた。

 ボクは布団に深くもぐったまま、ずーと耳をすましていた。センセの部屋からは、院長センセと愛子センセの話し声が長いあいだ聞こえていた。いったいどうしはったんやろか……。ボクは心配で明け方までゼンゼン寝られへんかった。そやけど、そのうちウトウトと寝てしもてん。それで、次ぎの日の朝、ボクが眼をさましたら、愛子センセの姿は、もう、どこにも見えへんかった。

 生徒全員が集められて、院長先生から「愛子先生は事情があって、昨日で辞められました」というお話があった。みんなは「え~、なんで、なんで…」と口ぐちに云うてた。「センセの彼氏やった山本センセが、この前やめはったから、愛子センセもやめはったんや、きっと……」誰かがそう云ってた。愛子センセは山本センセが好きやったから、そうかもわからんけど……、そやけど何で愛子センセまで急にやめはるんや……。

 ボクはみんなにわからんように、一人で涙をふき続けてた。
"センセ、なんでどっかに行ってしもたん……。いったいどこへ行ってしもたん……。お母さんがおらんようになって、大好きな愛子センセまでおらんようになってしもた……"
 ふと、ガラス窓から庭の木々を見上げると、すみ渡った青空のまんなかに、ポツンとひとつだけ、ふわふわとした、まっ白い'はぐれ雲'が、寂しそうに浮かんでいました。

 あれは、たしか8才の時やったから、センセがおらんようになってから、もう10年になります。
 いまでもセンセのことはよく思いだします。遠くから電車の音が聞こえると、ひょっとしたら今日にでも帰ってくるのと違うやろかと、僕はいまでもガラス戸のむこうの小さな庭の方に眼を向けるのです。
 ふと、そこに愛子センセが、にっこりと微笑んで立っているような気がして……。 (終)

no.053_2
◎国道のカーブに沿って、岩田坂の停留所がある。(岩田坂駅)

no.053_3
◎停留所のそばに秋の草花が咲きほこる。(岩田坂駅)

no.053_4
◎沿線は明るく、ゆったりとした風景が続く。(北一色~野一色)

no.053_5
◎夕暮れと共に、家路につく人々。(新関駅)

no.053_6
◎美濃の町々にも、たそがれが訪れる。(上芥見付近)

  ◎写真の人物はイメージです。文中の登場人物とは一切関係ありません。
  ◎名古屋鉄道・美濃町線(2003.11.02撮影、Cr/2011.02.02)

●名古屋鉄道・揖斐線(忠節~黒野12.7Km)
・大正15年4月6日開通
・平成13年9月30日廃止

●名古屋鉄道・岐阜市内線(岐阜駅前~忠節 3.7Km)
・昭和28年7月1日開通
・平成17年4月1日廃止

●名古屋鉄道・美濃町線(徹明町~関 18.8Km)
・明治44年2月11日開通
・平成17年4月1日廃止


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