オッチャン鉄ちゃんの足のむくままタイトル
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旅めぐり脱線百話:A-028a列車

はぐれ雲
その1

no.050●14.11.26
      ◎明るい日射しの中を、ゴトゴトと鉄橋を渡る2両編成の列車。(政田~下方)


 季節はもう秋なのに、まだときどき、夏の終わりのような暑さがぶり返す日が続く年でした。私は決められた就寝時間からもう30分も経つのに、むし暑さでなかなか寝付けませんでした。

 ようやく、もの心のついたその頃の私は、お父さんとお母さんの顔も知らず、一人で岐阜の町はずれにある、小さな孤児院のなかで生活をしていたのです。
 かすかに覚えていることと云えば、よちよち歩きの私が、大きな荷物を手に持った、お母さんらしき人と赤い電車から降りて、この学園までとぼとぼと歩いて来たことと、途中の大きな木にミ~ンミ~ンと、セミのやかましく鳴く音が聞こえていたこと位です。ですから、今でもはっきりと記憶に残っているあの事は、もう少し後の出来事でしょうか……。
 そうそう、たしか、あれは私が8歳のとき、特別教室2年生のときのことでした。




 ふと見ると、ボクの右側に寝ているツヨシは、布団から足を投げだして寝ているし、右側のナオエもスースーと寝息を立ててぐっすり眠ってる。ほかのみんなも、もう全員眠っているらしく、あっちこっちから軽いいびきが聞こえた。
 ボクが廊下側に掛かった薄いカーテンの隙間から、小さな職員室のほうをのぞくと、その部屋にはまだうっすらと明かりが点いていました。
'ふうん、愛子センセ、まだ起きてるんや'
 愛子先生が大好きなボクは、誰にも気づかれないように、こっそりと布団を抜けだすと、板敷きの古い廊下を音をたてないように、忍び足で職員室に向かいました。
「センセ、愛子センセ……」
 ボクは聞こえるか聞こえないか、わからないほどの小さな声をかけると、職員室の古いガラス戸をソーっと開けました。
「あら、幸太くん、まだ起きてたの?早く寝ないとダメよ」
部屋の照明を暗くして、机に向かって何やら書類を書いていたセンセの横顔は、白い、透き通るような肌が電気スタンドの灯りに照らされ、いつもよりさらに綺麗にみえました。
「センセ、園長センセは、もう寝はったん?」
「さきほど、お2階に行かれたから、もうお休みになられたようよ」
「ふうん。…あのなぁ、センセ。ボクのお母さんて、どんな人やったんやろ。それをず~と考えてたら、なかなか寝られへんねん。……センセのお父さんとお母さんはどんな人やのん?」
「……ううん、先生もお父さんとお母さんはいないの。だから先生も幸太くんと同じように子供の時からずぅ~っと、お父さんとお母さんの事を考えながら、ここで育ってきたのよ」
「ふうん…。そしたらセンセも寂しかったん?」
「そうね、ずうっと寂しかったわ。……でも、今は幸太くんや、ほかの皆もいるから、ちっとも寂しくないわよ。さぁ、はやく寝なさい。じゃあ今日は特別に先生が幸太くんと一緒に寝てあげる。こっちへいらっしゃい」
「うん…。わぁ、ふわふわして、いい気持ちや。…ああっ、センセの身体、ええ匂いがする…。センセの夜の匂いや」
 古びた、小さな応接ソファで添い寝されたボクの全身を、昼間にはない香水の匂いと、センセの身体全体から立ち昇る、生温かい、むせ返るほどの女の匂いが、わぁ~っと一挙に包み込むのでした。(続く)

no.050_2
◎サッカーチームの元気な少年たちの横を行く連接電車。(旦ノ島~尻毛)

no.050_3
◎山に向かって、かぼそい単線の軌道を走り過ぎる。(政田~下方)

no.050_4
◎ゆっくりと鉄橋を渡る、電車。(政田~下方)

no.050_5
◎まぶしい光を受け、颯爽と築堤を駆けぬける。(政田~下方)

no.050_6
◎神社の境内の鼻先をかすめて、ゆっくりと走る電車。(政田~下方)

  ◎写真の人物はイメージです。文中の登場人物とは一切関係ありません。
  ◎名古屋鉄道・揖斐線(2005.01.09撮影、Cr/2011.02.02)


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