オッチャン鉄ちゃんの足のむくままタイトル
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旅めぐり脱線百話:Su-027列車

日産自動車・フーガ

no.049●14.10.11
メイン049写真
  ◎池田川鉄橋ごしに伊雑浦が広がる。(志摩磯部~穴川)

 近鉄特急の大きなガラス窓を流れ過ぎる景色は、濃緑の深い木々の生い茂る、上り下りの勾配の多い山中から、いつしか広々とした田園風景に変わっていた。それに伴って床下から響いていた、やや唸るようなモーターの音も消え、カタンカタンと軽やかなジョイントの響きに変化していた。
「山下はん、あの向こうにキラッと光って見えるアレ、海とちゃいまっか?」
「ええ、どこ?どこ? どこでっか?」

 車内には真夏の日差しがサンサンと降りそそいでいた。
同い歳だった山下と松本は、たまたま同じ会社に二人揃って入社し、二人揃って定年退職をした。松本の二人の子供たちは数年前にそれぞれ自分たちの家庭を持ち、山下の三人の子供たちも一昨年の末っ子の結婚により、めでたく子育ては終了した。
 それ以来、自分たちも、妻との二人暮らしに戻った。
山下と松本との二人旅が始まったのも、その頃からだった。

「ワシ、この前、車を買い替えましてん。嫁はんから'今の車、だいぶ古うなったし、そろそろ新しい車に買い替えましょうよ。退職金も出たことやし'って云われて…」
「えっ、ワシもでんがな。先月に…。それで、日産のフオーガーを買いましてん」
「ああ、そうでっか、うちも日産です。ホューガって云う車でんねん」
「はぁ~っ、フオーガーと、ホューガ、なんやよう似た名前でんなぁ…」
「ホンマやなぁ…。ところで松本はん、慢性鼻炎のほうは、その後どないでんねん?」
「毎日、医者の薬を飲んでまんねんけど、鼻づまりはもうひとつでんな。
センセはなかなかの'ベッピンさん'やねんけどネェ……。
山下はんの蓄のう症はどうでんねん?」
「これがまた、なかなか良うなりまへんねん。毎週2回も通うてまんねんけど……。はぁ、センセでっか?センセはオッサンでんねん、残念ながら……」
「おたがい大変でんな。まっ、ゆっくり温泉にでも入ったら、鼻のぐあいも多少は良くなりまっしゃろ、ハッ、ハッ、ハックシンっ!」
「ヘッ、ヘックション!ヘックション!」
鼻の奥をムズムズさせて、二人はくしゃみを連発した。

 特急はゴーゴーと、ごう音を響かせて池田川鉄橋を渡った。
終点の賢島までは、もう間もなくだった。


※2009年に発売開始された高級乗用車「フーガ」は、音楽用語の'調和'、または、上品で優美な'風雅'などの意味を込めてネーミングされた、日産自動車のフラッグシップカーである。




 昭和45年、近畿日本鉄道は"伊勢志摩"の観光開発をめざし「鳥羽線(宇治山田~鳥羽)」を新設、および三重電気鉄道から引き継いだ「志摩線(鳥羽~賢島)」を広軌化。以降「大阪・名古屋・京都」から、伊勢志摩への直通特急が運転されるようになった。
 なお、JR参宮線については「Su-015列車・潮騒の海」をご参照ください。


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◎澄み渡った青空と、カラフルな列車の対比が美しい。(志摩磯部~穴川)

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◎志摩観光のスタート地点、賢島駅。

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◎近鉄特急が勢ぞろい。(賢島駅)

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◎もう一方の伊勢の玄関口、JR伊勢市駅。

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まっ青な空と、海の間を行く列車。(池の浦シーサイド~鳥羽)

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伊勢湾ぞいの小高い山々を背に…。(池の浦シーサイド~鳥羽)

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水門の横に浮かぶ、一艘の舟。(池の浦シーサイド~鳥羽)

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海を渡るように走る列車。(池の浦シーサイド駅)

◎写真の人物はイメージです。文中の登場人物とは一切関係ありません。
◎近畿日本鉄道 志摩線(2010.10.11撮影)◎JR参宮線(2004.06.13~2006.04.15撮影)


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