オッチャン鉄ちゃんの足のむくままタイトル
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旅めぐり脱線百話:Su-026d列車

葡  萄
その4

no.048●14.09.25
メイン048写真
  ◎山並みに沈む西日を背に、特急列車が走りすぎる。(二上神社口~当麻寺)

 そういえば高校三年生のとき、大阪まで一緒に映画を見にいったことがあったなぁ。

 タイトルはもう忘れたけど、帰りのスパゲッティ屋さんで僕があんまり主役の女優を褒めるものだから、彼女、すっかり怒っちゃって、一人で先に帰っちゃった。
 何回も電話で謝ったけど、結局あれ以来、学校で会ってもまったく知らんぷり。じゃあ、あれからもう5年も経つんだ。

 あれっ、彼女、手紙を書きだしてる。いったい誰に出すんだろう。
今、付きあってる彼氏かなぁ。ずいぶん長くかかってるけど、悲しそうな顔して、ひょっとして泣いてるのかも。もうじき降りる駅だけど大丈夫かなぁ。尺土駅も過ぎたし次の駅で降りないとダメなのに…。

「次は!高田市でございます!」
和男は大声で三回もマイクに怒鳴った。
 ドアが開き真奈美は大いそぎで電車をおりると、乗務員ドアに駆けよってジッと僕の顔を見た。
「これっ…」
サッと僕の手にピンクの封筒を手渡すと、彼女は急ぎ足でホームの階段に向かった。動きだした電車はまたたく間に真奈美を追いこした。
 走りさる電車の風が真奈美の髪をふきあげた。
和男は真奈美の瞳にキラッと光る涙を見たような気がした。

"ごめんなさいね、和男さん。私ほんとにわがままでしょ。
中学の頃からいつも仲よくしてもらってたのに、ゴメンね…。
映画に行った後、ずっと後悔してたわ、何年も…。数日前から和男さんにまた会えるようになって、私、ほんとうの幸せに再会したように思います。
勝手な私ですが、また、会ってくださいネ"

 真奈美の手紙を読みおえた和男が乗務員室の窓をあけると、青々とした奈良盆地の初夏の風がどっと吹きこんだ。
 ながめる景色が、家々が、線路が、二上山が、フルスピードでどんどん遠いかなたへ走りさった。

 そうだ、過ぎさった昔のことはもう忘れよう。
「真奈美、今日の乗務が終わったら電話するよ…」

 もらった手紙を胸のポケットに入れた和男は、吹き渡るさわやかな風に、ふっと葡萄のあまい香りを感じるのだった。(終)




 明治31年、柏原~古市間を蒸気鉄道として開業した河陽鉄道は、順次路線を延伸し、大正8年、社名を大阪鉄道と改名の上、同12年、大阪阿部野橋まで開通。
 その後、昭和18年、関西急行鉄道(現・近畿日本鉄道)と合併し同社の南大阪線となった。当路線は、近鉄の各路線中、最も古い歴史をもつ。
 尚、蒸気鉄道としてスタートした、この路線グループ(大阪阿部野橋~橿原神宮前・その他支線)の線路巾は1067mmでJRと同じ狭軌。幹線は広軌が中心の近鉄電車のなかでは、珍しい存在である。


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◎午後の陽ざしがまぶしい❼
 「尺土駅」は、古市~橿原神宮間で唯一追い越し設備を持つ。
  開業:昭和4年3月29日・奈良県北葛城郡當麻町尺土228

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◎乗り換え客が多い「尺土駅」の出入り口は、以外に簡素な造りである。

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◎尺土駅から御所方面へと、列車は頻繁に発車する。

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◎奈良県南西部の中心都市「高田市」は
   '近鉄南大阪線'以外にも、近鉄大阪線、
  JR和歌山線・桜井線なども乗り入れる、
  交通の要所である。・駅前広場のモニュメントが
  モダンな❽高田市駅

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・高田市駅 外観

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・高田市駅 改札口


―――――周辺の名所を訪ねて―――――

●石園坐多久蟲玉神社
(イワゾノニイマスタクムシタマジンジャ)
 「龍王宮」とも呼ばれ、近郷の信仰があつい。高田市駅の間近に鎮座する。
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●式内大社 長尾神社
  日本最古の官道「竹内街道」「初瀬街道」などの各街道の起点に鎮座する。
  古代より交通安全の神として信仰されている。

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  ◎写真の人物はイメージです。文中の登場人物とは一切関係ありません。
  ◎近畿日本鉄道・南大阪線(2004.02.08~2014.05.04撮影、Cr/2008.11.04)


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