オッチャン鉄ちゃんの足のむくままタイトル
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旅めぐり脱線百話:Su-026b列車

葡  萄
その2

no.046●14.08.00
      ◎駒ヶ谷の谷あいで、近代的な高速道路と立体交差する。(上ノ太子~二上山)


 車掌の若者は、金 和男といった。
 彼の両親はこの電車の窓から見える一面の葡萄畑の所有者だ。今日も朝から親父と長男夫婦は葡萄畑の急斜面を一日に何度も登り下りしながら葡萄の手入れに汗を流しているはずである。
 次男の和男は学校をでると、子供の頃から見なれた近鉄電車にあこがれて入社試験を受けた。
「テストはなかなか優秀な成績です。珍しいお名前ですね」
「はい。先祖は今から1600年前に高麗から渡来したと聞いています」
「じゃあ、駒ヶ谷の代々の地主さんですね」
「はい。他の地主の人々も元々は高麗の方が多いんです」

 準急電車は山あいの駒ヶ谷駅に停車した。
「和男さん」
 手をふって乗ってきたのは中学の同級生の真奈美だ。
「やあっ!」
 にっこりと笑顔で挨拶した和男はピーッと発車の笛をふき、ドアのスイッチを押した。'プァン'と短いタイフォンの音が谷あいにこだました。
「次は、上の太子」
車内に和男の明るい声が響きわたった。

 客席と仕切られた乗務員室のカーテンのすき間から真奈美の姿が見える。
今年の春から、研修期間を終えた和男が乗務するこの列車にいつも乗ってくる。中学生の頃はおてんばな女の子だったが、今はなかなか女らしいしっとりとした美人になっていた。
 真奈美が音楽大学に合格したという話は、数年前に聞いた。
そういえば放課後の中学の音楽教室で、よく一人でピアノを弾いているのを見たことがある。

 降りるのはいつも7駅先の高田市駅だ。
この前、母から
「真奈美さん、ピアノ教室の先生をされてるそうよ」
と聞いたから、きっとそこへ通っているのだろう。
彼氏はいるのかなぁ……。
 なかなかの美人だし、胸もあんなに大きくなっちゃって。
若い男性の生徒から云い寄られてるだろうな、きっと。
オヤジの生徒だったら絶対に許さないからな!ホント!

 ふと、急にふり返った彼女の大きな瞳と、目が合いそうになった和男は、あわててマイクを取った。
「まもなく、上ノ太子です」
数人の乗客を降ろした列車は、ふたたび駅を発車した。(続く)

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◎モーターの唸りが谷あいに響く。(上ノ太子~二上山)

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(上ノ太子~二上山)

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◎急勾配と急カーブが連続する、難関を走る。(上ノ太子~二上山)

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◎列車の後方に二上山雄岳がそびえる。(二上山~二上神社口)

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◎踏切後方の、新緑の山々が清々しい。(上ノ太子~二上山)

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◎田植えが始まったばかりの、美しい風景の中を行く。(二上神社口付近)

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◎二上山の麓にポツンと佇む❸「二上山駅」・開業:昭和4年3月29日・奈良県香芝市畑4-106-2

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◎二上神社からほど近い➍「二上神社口駅」・開業:昭和4年3月29日・奈良県北葛城郡當麻町加守544


―――――周辺の名所を訪ねて―――――

●飛鳥戸神社(あすかべじんじゃ)
祭神は素戔嗚尊(すさのおのみこと)であるが、本来は5世紀に
渡来した百済王族・昆伎王の子孫、飛鳥戸造(あすかべのみやつこ)
氏族の祖神を祀る。

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●叡福寺(えいふくじ)
聖徳太子の墓所があり「上ノ太子」とも呼ばれる。
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・二天門

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・浄土堂

●磯長山田陵(しながやまだりょう)
第33代・推古天皇をお祀りする。
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●首子古墳群(くびこ こふんぐん)
二上山東麓の丘陵上に、10基の古墳が点在する。
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●首小塚
首子古墳群の中心的な存在である。「二上神社口駅」から徒歩15分
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  ◎写真の人物はイメージです。文中の登場人物とは一切関係ありません。
  ◎近畿日本鉄道・南大阪線(2004.02.08~2014.06.16撮影、Cr/2008.11.04)


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