オッチャン鉄ちゃんの足のむくままタイトル
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旅めぐり脱線百話:Su-025列車

武蔵野の夏

no.044●14.06.18
メイン044写真
  ◎一面に広がる、武蔵野の野菜畑の中をゴトゴトと黄色い電車が走り過ぎる。(国分寺線・鷹の台~小川)

 "家からの仕送りが、まだ届かんがな……。
ワシゃ、いつになったら、高松に帰れるんかのう……"
 ぼってりと肥満した身体に、ポタポタとしたたり落ちる汗をぬぐいながら、土肥は自分のサイフの中をそっとのぞき込んだ。
"しかし、遅っそいのう、あいつら、いつまでしよるんじゃ…"
 水野、斉藤、須永までは終わった。今、となりの部屋でウン、ウン、ハァ、ハァと呻いている声は、松本と8号室の巨乳女の声だ。次はいよいよ土肥の番である。
 武蔵野の広大な原野のただ中にポツンと建つ、大学生向け安普請の木造アパートのこと、となりの部屋の声はまったくの筒抜けであった。
 土肥はあの8号室に住む同級生の、豊満な肉々しい体つきを、巨大に盛りあがった乳房を、思わず食らいつきたくなる特大の尻を、また思い浮かべた。

 パンツ一丁でも汗の噴きでる真夏のまっ昼間。ほとんどの学生は帰省中で、ここに残っているのはこの6人だけであり、1号室のナントカ大学の学生の大家までが、夏休みで不在だった。
 大きく開けた窓からは延々と広がるトウモロコシ畑と、それを横切る西武・多摩湖線の、のんびりと走る二両編成の電車が見えた。

 ふと気がつくと、ついさっきまで聞こえていた、艶めかしい女のよがり声がなぜか聞こえなくなった。
 土肥は、また耳をすました。すると、突然、女の号泣する声がした。
'えっ、どうしたんじゃ…'
土肥はオロオロとうろたえた。
バタンッと音がして、いきなり部屋のドアが開いた。
「おいっ、あの女、やってる途中で'こんな事やるの、もう、イヤヤっ!'って云いやがって、急に大声だして泣き出しよった…」
松本がシマのパンツ一丁でドアから入ってきた。
 すでに行為を終わり、ニヤニヤと薄笑いを浮かべながら、そそくさと自分たちの服を着はじめていた3人の男たちは「えっ!」と、一様に松本の顔を見た。
「そっ!そしたらワシはいったい、どうなるんじゃ!?
麻雀で負けたから身体で支払うと云ったのは、あの女じゃけんの……!」
ただ一人残った土肥は、大きく眼を剥くと急に涙声になった。

 やがて女の声がいくぶんかおさまった頃、土肥はパンツ一丁のままでオロオロと部屋を出ると、仕方なくとなりの部屋のドアをそっと開いた。
 部屋の片隅では、すっ裸の女がズルズルと鼻をすすりながら、ガックリとうな垂れていた。
 土肥は女の耳元で小さくささやいた。
「あのう、ワシだけ、まだ入れて無いんじゃけど……」

 裸の女は、ふたたびドッと畳みのうえに顔を伏せると、全身を震わせながら、さらに激しく、狂ったように号泣するのだった。(終)

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◎小さな踏切をわたる小学生。(国分寺線・鷹の台~小川)

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◎蝉しぐれの神社の横を、多摩湖線の電車が通りすぎる。
 (多摩湖線・国分寺~一橋学園)

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◎鷹の台駅の周辺には、一橋学園、武蔵野美大、
  津田塾大など多くの学校が集まっている。
 (国分寺線・鷹の台駅)

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◎夕暮れの鷹の台駅。(国分寺線・鷹の台付近)

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◎鷹の台駅の周辺には、学生むけの喫茶店が多い。
 (国分寺線・鷹の台付近)

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◎府中街道ぞいにある名門・津田塾大学。正門より校内をのぞむ。
 「鷹の台駅」からは、ほど近い場所にある。

◎西武鉄道・国分寺線/多摩湖線(2013.08.28~30撮影、Cr/2012.10.25)                        
※この物話はフィクションであり、使用した写真の建築物、施設等には一切関係ありません。



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