オッチャン鉄ちゃんの足のむくままタイトル
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旅めぐり脱線百話:Su-024b列車

箱根七里

no.043●14.06.03
      ◎箱根山中の隧道をぬけ、小さな渓流を渡るモハ2形。(塔ノ沢~大平台)


 'お客さん、どちらから?…大阪。いいですね、ご夫婦で。
これからお帰りですか?よければ馬子唄でもお聞かせしましょうか。
新幹線の発車まで、まだゆっくり時間がありますしね'
箱根の坂道を下りながらタクシーの運転手はのんびりと言った。

'箱根え~~~~ぇぇぇっ~~~~、七里はぁ~~~~~~~~、
馬でぇ~~~~~~もぉ、越すがぁ~~~~~~~~っ'
 軽やかにハンドルを回しながら、運転手は自慢の喉をコロン、コロンと響かせた。

'ああ、ちょっと渋滞してますね、ま、時間は充分ありますし…。
下りぃ~~~ぃ、坂ならぁ~~~~~~ぁ、嬉しい~~~~~~ぃ、 けれどぉ~~~ゴホッ、ゴホホッ、あれっ、ちょっと喉の調子が…。

下りぃ~~~、下りぃ~、下りぃ~、下ってばっかりですね、ハハハッ。
 いやぁ、これでも会社の民謡友の会では、会長をやってましてね。あとは副会長と二人だけの会なんですよ、実は…、ア~ハハハッ。
じゃあ、これいきましょう…。佐渡ぇ~~~~~'

 渋滞は延々と続き、列車の発車時間が序々に気になりだした。
先ほどから道路むこうの木々の隙間に、箱根登山鉄道の赤い車体の電車がスイスイと走るのが見えた。しまった、あれに乗ればよかった。二人は顔を見合わせ動かないタクシーの中で後悔した。

'お客さん、取っておきの素晴らしい歌があるんですよ…'
山道の渋滞は下っても下っても解消されそうになかった。

'あれっ、あまり時間が無くなってきましたね。もうすぐ駅なんですけどね。ちょっと危ないなぁ……よしっ、近道を行きましょう'

運転手の表情に焦りの色が浮かんだ。ほそい路地を何回もまがり、タクシーは急ブレーキを軋ませながら、なんとか小田原駅に着いた。
'お客さん、荷物、荷物、あと2分ですからね、急いで、急いで'

 二人は足早に駅の階段をかけ登った。
山のようなお土産を手にハァハァと息をきらせて、やっとホームに顔を出すと、赤いテールランプを点けた'ひかり号'はクネクネと車体を曲げながら、すでにホームの彼方に消えようとしていた。




・80‰もの急勾配をスイッチバックで折り返しながら走行する、箱根登山鉄道は我が国屈指の登山鉄道である。
明治21年に国府津から小田原を経由し、箱根湯本まで開業した小田原馬車鉄道をルーツとする1,435mm軌間の当鉄道は、明治33年に電化。その後、スイスの登山鉄道を参考に、大正8年、強羅まで開業。車輛のブレーキには安全のため、空気・発電制動ほかレール圧着制動も装備した。昭和3年に箱根登山鉄道と社名変更。昭和25年、レール巾の異なる小田急電鉄と相互乗り入れを行うため、箱根湯本から小田原までを3線軌道に変更。それにより、東京新宿から小田急電鉄の特急列車などが、箱根湯本まで直通運転を行えるようになった。

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◎急カーブの鉄橋を渡る、赤い登山電車。(彫刻の森~強羅)

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◎電車の背景には新緑の山々が連なる。(彫刻の森~強羅)

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◎線路の周辺には多くの'あじさい'が自生。
  シーズン中は'あじさい祭り'が催される。(小涌谷~彫刻の森)

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◎スイッチバックの設備は、全線に2か所設けられている。(小涌谷駅)

no.043_6
◎電車の線路脇には、まだ新緑のもみじが……。(彫刻の森~強羅)

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◎めずらしい狭軌・広軌両用の分岐レール(ポイントレール)。
  広軌の箱根登山鉄道と、狭軌の小田急電鉄が、
  相互乗り入れをするために設けられた。(箱根湯本駅)

  ◎写真の人物はイメージです。文中の登場人物とは一切関係ありません。
  ◎箱根登山鉄道(2006.08.19~21撮影、Cr/2009.02.20)


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