オッチャン鉄ちゃんの足のむくままタイトル
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旅めぐり脱線百話:W-022a列車

十三夜

no.035●14.02.11
メイン035写真
  ◎空たかく昇った満月に照らされた川面と鉄橋。(丹後神崎~丹後由良)


 木枯しが吹きはじめた、ここは丹後由良。
星のまたたく澄みわたった夜空に、山の端から昇った十三夜の月が、やがて煌々と輝きはじめ、由良川の川面と、幾重にも重なった黒々とした険しい山々の木々を、明るく照らしだした。

 時は今から900年ほど昔、平安の頃のお話である。
 無実の罪で、遠く九州の地に流された父を助けるため、母と安寿と厨子王丸の三人は陸奥の国を旅だった。
 途中、越ノ国で何者かに騙された母は、何処かへ連れ去られ、まだ16歳の安寿と13歳の厨子王丸は、ここ丹後の山椒太夫のもとへ送り込まれた。

 ある夜のこと、姉の安寿は、
「さぁ、厨子王丸、これから私の云うことをよく聞くのよ。
 今夜こそ、私に不純異性行為をせまり、そのうえイヤラしい風俗店へ売り飛ばそうとする、あの恐ろしい山椒太夫のところから逃げだすのよ!私は川の向こうに逃げるから、あなたは森をこえた和江の国分寺に逃げなさい。
 きっと和尚さまが守ってくださるでしょう。気をつけるのよ!」

 安寿は山に向かって姿をくらまし、まっ暗な闇のなかを走った。折りかさなった木々にさえぎられて、あんなに明るかった月の光さえも、もうとどかない。とうとう安寿は灌木の茂みに迷い込んでしまった。食べ物もなく、凍てつく深い山のなか'安寿恋しやホーヤレホ、厨子王恋しやホーヤレホ'と歌う、あの懐かしい母の声を思いだしながら、とうとう年端もいかぬ命を落としてしまった。

 一方、厨子王丸は苦労のすえ無事、和江にたどり着いた。
親切な国分寺の和尚の力を借り、次々と起こる困難に打ち勝ち、やっと無実の父を救いだすと、ついにはナント!丹後国の国王へと立身出世を成しとげたのである。……めでたし、めでたし!
 由良川の河口に架かる「北近畿タンゴ鉄道」の由良川鉄橋は、全長551.8mの長大な鉄橋だ。大正13年、国鉄・峰山線として開通と共に架橋された。

 数日前の大雨による増水した川岸では、暗闇のなかをあの安寿と厨子王丸をしのび、十三夜の月と山々に向かい、もう何時間もカメラを前にたたずむ怪しき人影があった。

 増水を心配し、畑を見まわりに来た農家の人が、ふとその人影を見つけた。
'ジロリっ…'
 満月に照らされた農家の人の顔には、クッキリとこう書いてあった。
「ふん、鉄ちゃんか…。ノーテンキなヒマ人めがッ!!」

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◎夕暮の由良川沿いを走る。(東雲~丹後神崎)

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◎山深い渓谷に架けられた鉄橋を行く。(野田川~丹後大宮)

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◎トンネルに進入するタンゴ・エクスプローラー。(岩滝口~野田川)

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◎列車は栗田湾を離れ山中にわけ入る。(栗田~宮津)

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◎晩秋なは可憐なコスモスが、沿線のあちこちで咲き乱れる。(西舞鶴~四所)

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◎栗田湾に面した漁村に夜のとばりが訪れる。

  ◎この物語はフィクションであり、その内容は使用した写真の建築物、
  施設等とは一切関係はありません。
  ◎北近畿タンゴ鉄道・宮津線(2003.07.06~2006.10.12撮影、Cr/2008.08.16)


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