オッチャン鉄ちゃんの足のむくままタイトル
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旅めぐり脱線百話:A-017e列車

湖畔のたそがれ その⑤
雄太の秋祭り

no.023●13.08.27
メイン023写真
  ◎巨大な曳山の横をゆっくりと通過する電車(上栄町~浜大津)


 二学期が始まり、やがて一カ月もたつと、どこか秋の気配を感じるようになった。この頃になると雄太は急に落ちつかなくなる。大学の授業中でも、故郷の大津祭のお囃子の音があたまに浮かぶと、それが耳を離れなくなるのだ。
「よしっ、大津に帰ろう…」
 さっそく恋人の祥子にメールを打つ雄太の心は、すでに故郷の大津祭に飛んでいた。

 大津のメインストリートは晴れ渡った初秋の空にコンコンチキチンのお囃子の音が響き、人波と曳山と、その間を通りぬける電車とでごった返していた。
 地元の人たちはもちろん、大勢の観光客ですら、どの顔も活気に満ちていた。
雄太と祥子は人ごみの中で、しっかりと手と手を取り合っていた。
曳山の上からバラバラとチマキが撒かれる。人々は「ワーッ!」と云う歓声と共にそれに群がる。
「雄太くん!ほらチマキが落ちてくるわよ!」
「よしっ!祥子の分も取ってあげるよ!ほらっ!…あれぇ」
「アッハハハ…雄太くん、取るの下手ねぇ~」

 人波に流された二人は京阪大津駅の近くに来ていた。
「あ~疲れた。もう琵琶湖の近くだ。ちょっと休もうか」
秋の始めの湖は、遅い午後の太陽を浴びてまぶしく輝いていた。
「あのお祭りは大津にも、京都の祇園祭に負けない立派なお祭りを作ろうって、むかし町衆が協力しあってできたんだって。そらからもう何百年も経つけど、今でもしっかりと伝統をまもっているんだ。
…ねえ、もうそろそろ帰ろうか。お母さんが夕飯を用意するって云ってた」

 家が近づくにつれ初めて母と会う祥子は、緊張するのか僕の腕にすがりついた。心臓の鼓動と共に、祥子の柔らかく豊かな胸の感触が、僕の欲情を刺激するのだった。
「ただいま。お母さん、紹介するよ。僕のガールフレンドの祥子さん」
ふと雄太は、いつもと違う母の浴衣姿にハッと息をのんだ。

 濃い栗色の髪を後ろに束ね、色白の美しい顔にピンクのルージュが艶めかしく光り、しっとりとしたエンジ色の秋らしい浴衣は、もみじの葉がハラハラと舞いおちていた。

「いややわ雄太、なに見てるの…」
いつもと違う母の姿に雄太は呆然と見とれ、今にもその豊かな胸元に深々と顔を埋めたい衝動に襲われるのだった。(続く)

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◎周辺の家々の前にも大ぜいの観光客がひしめく(上栄町~浜大津)

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◎電車の通る大通りも、家々の路地も人の波(上栄町~浜大津)

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◎鉢巻にハッピ。若い衆の晴れ姿が凛々しい(上栄町~浜大津)

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◎伝統工芸の美しさに観客もうっとりと…(上栄町~浜大津)

  ◎写真の人物はイメージです。文中の登場人物とは一切関係ありません。
  ◎京阪電気鉄道・京津線(2004.10.10撮影、Cr/2008.07.04)


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