オッチャン鉄ちゃんの足のむくままタイトル
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旅めぐり脱線百話:Su-017d列車

湖畔のたそがれ その④
大津絵

no.022●13.08.13
メイン022写真
  ◎古めかしい店の前をゆっくりと走る800形(上栄町~浜大津)


 「おとうさん、いよいよ明日から'大津祭'ですね」
 「そうやな、お囃子の練習の音が町中のあちこちから聞こえるな…。
各町々は鉾の準備で大変やろう。お前も三宝堂で気にいった螺鈿の髪飾りがあったら、お祭り用に何か買いなさい」

 ゴトン、ゴトンと音をたてて京津線の800形が目のまえの道路をとおり過ぎていった。お祭り前の町はざわめいていた。
 毎年この頃になると
「おじいちゃん、お祭りにつれて行ってよ」
と孫の雄太が必ずかわいい顔をだしたものだが、最近はまったく来なくなった。
「雄太はどうしているんでしょうね?お友達とデートにいそがしいのかしら…」
「母親の雪江に似て、よくもてるんだろう。ところで雪江の大津絵教室はうまくいってるのか?」
「男の生徒さんもたくさん来られてるって聞きましたよ」

 若くして夫に先だたれた雪江は実家に戻らず、同じ職場の先輩だった大津絵師の夫のあとを継ぐように、自宅で大津絵の教室をひらいた。
おんな手ひとつで雄太を育てながら教室をやっていくのは大変だったが、もともと絵の好きな雪江は苦にならなかった。
 その熱意と、もの静かで丁寧な指導は若い人たちから年配の人々まで好感をもってむかえられた。その美貌にひかれる男性の生徒が多いのも事実だが、雪江はただ雄太の成長だけが楽しみだった。

「ねぇ、おとうさん、どの髪飾りがいい?」
三宝堂の店内はお祭りを前にした大勢の客が訪れていた。
「これはどうかしら?大津絵の'傘さす女'のデザイン。ちょっと雪江に似てるんやないの?」
「ほんまやなぁ。じゃあ、それをおみやげに、ひさしぶりに雪江のところへ寄って帰ろうか。この時間なら雄太にも会えるやろう」

 二人が店を出たのは秋のはじめの太陽が、そろそろ音羽山の山影に沈もうとする頃だった。
 しかし、明日のお祭りの準備に忙しい町のざわめきは、まだまだ収まるようすもなかった。(続く)

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◎賑やかな商店街を横切る800形(上栄町~浜大津)

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◎菱屋町商店街は大津一の繁華街である(上栄町~浜大津)

no.022_4
◎逢坂の峠を越えて京都に向かう(大谷~上栄町)

no.022_5
◎琵琶湖の夕風をうけてビア・ガーデンも大にぎわい(浜大津付近)

※写真の人物はイメージです。文中の登場人物とは一切関係ありません。                        


◎京阪電気鉄道・京津線(2003.08.01~10.10撮影、 Cr/2008.07.04)



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