オッチャン鉄ちゃんの足のむくままタイトル
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旅めぐり脱線百話:Su-017a列車

湖畔のたそがれ その①
さざ波

no.018●13.06.18
メイン018写真
  ◎民家ぞいの路面をゆく700形。(浜大津~三井寺)


 東京の大学へ通う雄太は、今年の夏休みも大津の実家に帰省した。
 暑い夏の日射しをうけた夕顔が、紫の花を咲かせる光景をみると
「あ~、家に帰った」
という実感が心の底から湧いてくるのだった。

 生まれ育った家の前の道路にはゴトゴトとレールを響かせながら、石山坂本線の併用軌道を電車が走りすぎる。
雄太はその音を聞くのが大好きだ。
「いまのは700形だな…」
幼いときから毎日毎日、電車の音を聞きながら成長した雄太は、音だけで電車の形式がすぐに判るのだった。

「今年はゆっくり出来るんでしょ…」
母の願う言葉とは裏腹に、3日と経たないうちに東京で付きあっている、祐子の面影が目に浮かんできた。きっと今頃は、色白の顔にふと漂う、寂しげな黒目がちの瞳から大粒の涙がこぼれ落ち、豊かな胸元を濡らしながら、たった一人で寂しがっているのだろう。
「そうだ、東京へ戻ろう」
母の愛情を気遣う雄太であったが、祐子の豊かな胸を想像すると強い欲望を抑えきれなかった。
「ええっ、でもあさっては雄太が小さい時から大好きな花火大会の日よ。お母さんと行くって約束してたじゃないの…」
ふと見ると、母の目にはうっすらと涙が浮かんでいた。

 親父が早く亡くなり、雄太はずっと母の手ひとつで育てられた。歳より10才は若くみえる母は、まだまだツヤやかな肌に、うっすらとピンクに輝くポッチャリとした唇が妙に艶めかしかった。悲しそうな母の顔をみつめていた雄太は思わず
「ごめん!お母さん!……僕が悪かったよ、うううっ!」
と真っ白いブラウスに抱きつき、その豊かな胸元に顔をうずめると、何故かなつかしい興奮に包まれるのを抑えきれなかった。

 相変わらず暑さのつづく表通りは、紫色の夕顔が咲き、時おりゴトゴトと電車の走る夏のたそがれ時であった。(続く)

※さざ波:古くは琵琶湖の西南地方、もしくは近江国の古名。地名に冠して枕詞のように用いられた。


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◎600形(浜大津~三井寺)

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◎別所駅の周辺はカラフルな花壇で彩られている。(別所駅)

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◎沿線は民家が建ちならぶ。(三井寺付近)

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◎水路に茂る夏草。(三井寺付近)

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◎古風な街灯のある水路を渡る。(三井寺付近)

  ◎京阪電気鉄道・石山坂本線(2004.08.01撮影、Cr/2008.06.20)


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