オッチャン鉄ちゃんの足のむくままタイトル
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旅めぐり脱線百話:Sp-012a列車
憧れの
フォークリフター
その1

no.012●13.03.26
メイン012写真
  ◎房前~原


 小さい頃から琴電が大好きだった則夫は高校を卒業後、あこがれの電車の運転手になりたくて琴電の入社試験をうけた。
 みごと不合格だったが、それでもなお琴電が忘れられない則夫は、琴電とは縁もゆかりもない琴デン商事の入社試験を受け、なんとか合格した。

 琴デン商事は琴電の主要駅を中心に駅前に菓子、飲み物、みやげ物などの店舗販売を展開する会社であった。
「これで毎日、電車が見られる!」
 と則夫は喜んだ。配属された店の周辺は海辺の漁村と、ポツポツと点在する農家しかなく、お客は腰のまがった老人ばかりだった。たまには若いお姉ちゃんでも来るかと淡い期待を抱いて毎日、毎日、お店に立つのだが、とうとう一年がたった。

 昨夜も遅くまでエッチDVDをたて続けに3本も観た則夫はいつものように寝ぼけマナコで店頭に立っていた。
「おはようございます。牛乳をください」
 透きとおった可憐な声が聞こえた。急いでケースから牛乳を取りだした則夫の前には、長い髪の美しい少女が、かわいい笑顔で立っていた。
「はい。おつりです」
「どうも、ありがとう」
 さわやかに吹く海風に髪をなびかせながら、その美しい少女は去っていった。則夫がこの店に立って以来はじめての若い女性客だった。

 やがてお昼の休憩時間になった。今朝あった少女が気になった則夫は駅の近くを歩くうちに、さびれたフォークリフトの教習所を発見した。
 数人のグループがコースの中で荷物に模した箱をリフトで移動し、他の所定の場所に据えかえる練習だ。よく見ると自動車よりふた回りくらい小さなハンドルにノブが付いており、そのノブを持ちハンドルを回転させ、リフトの進行方向を決めるのだ。
「まるで、電車の運転台のマスコンにそっくりだ!」
電車の運転手になりたかった則夫の目は急に輝きだした。
「あのう、ボク、教習を申し込みたいんだけど」
さっそく則夫は教習所の受付に、書類を出した。

 1週間後、その日はあらかじめ代休をとった。 初日は学課講習だった。工業高校を卒業した則夫にはいたって簡単な内容であった。
「では、お昼の時間です。教習所の中に食堂があります。お弁当以外の人はそこで食べてください」

 午前中の学課は問題もなく、ホッとした則夫は食堂にむかった。
「お待ちどうさま。讃岐うどんです」
その聞きおぼえのある透きとおる声は、先日の長い髪の少女の声だった。
「えっ、キミはこの前の…」
「ああ、駅前の店員さんですね!フォークリフトの練習ですか?いろんな事に頑張ってるんですね」
「う、うん…キミはこのお店で働いているの?」
「そうなの。ここのお店はお父さんがやってるの。私はお手伝い」
どこかの席で彼女を呼ぶ声がした。
「はあ~い。…じゃあ練習をしっかり頑張ってくださいね」
 まだあどけなさの残るポッチャリした可愛い顔の、まっ白い綺麗な歯ならびの口もとに笑みをうかべながら、彼女は慌ただしく則夫のもとから去っていった。

 午後の講習も終わり答案用紙もスラスラと書けた。
「いよいよ明日はあのマスコンを握れるんだ!出発進行!」
則夫はフォークリフトを示唆しながらつぶやいた。


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列車の後方に源平合戦で有名な屋島が見える。(沖松島~春日川)

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房前には奈良時代の貴族「藤原房前」が、
この地で誕生したとの伝説がのこる。(塩屋~房前)

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元、京浜急行の車両。素晴らしい俊足で有名であった。(房前~原)

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(房前~原)

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後方に見える不気味な姿の山は八栗山。
別名・五剣山ともいわれ、「西国第八十五番霊場・八栗寺」
として西国遍路のひとつに数えられる。(房前駅)

  ◎高松琴平電鉄・志度線(2003.01.13~2003.05.04撮影、Cr/2008.06.20)


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