オッチャン鉄ちゃんの足のむくままタイトル
mouretsu.netホームへ作者プロフィールへはじめにページへ


旅めぐり脱線百話:A-003列車
つま恋の精霊

no.003●12.11.25
003メイン写真
抜里~川根温泉笹間渡

 'たびねする 小夜の中山さよ中に 鹿ぞ鳴くなる妻や恋しき'  
      
 平安のむかし、京の都より遠く遠淡海、上ツ毛野などに至る東海道は山沿いの雑草生い茂る、官道とは名ばかりの小道であった。
 都住まいの役人であっても勤めとあらば、遠路はるばる寂しい一人旅もせねばならなかった。

 朝から歩き疲れて棒のようになった脚をなげ出し、夜露に濡れたまま小夜の中山(現在の静岡県掛川付近)に、ひとり旅寝の床についた橘 為仲はこうこうと照る月あかりのなか、山中に響く鹿の鳴き声を聞きながら、都に残した若妻を想い懐かしく歌を詠むのであった。

 ふと眺めると月光に照らされた深い森のかなたに、かすかに白く湯気の立ち昇るのを見つけた為仲は、何かに憑かれたようにフラフラと誘われるがごとく湯気に向かって歩きだした。
 月の光に木々の葉という葉がキラキラと輝き、小枝を掻きわけながらやっとたどり着いたのは大きな岩と岩の間にもうもうと湯気の湧きたつ、透き通った小さな温泉だった。
 「おう、ありがたい…」
 お湯に入った為仲の目の前に幻のようにす~っと現れたのは、雪のようにまっ白い肌に、白鮎のような細い指ではとうてい隠しきれない豊満な乳房をもった、一糸まとわぬ絶世の美女であった。

 「あ、あ!そなたはもしや我が妻、ユウではないのか?」
 「いいえ、わたしはこの森林の湯に500年も昔より住む『つま恋の精霊』ですわ…」
 「いやユウだ、ユウに違いない!夫であるこの俺を忘れたのか?ユウ…ユウ…、しっかりしろ!」
 思わず湯から飛び出した為仲のまえには、もう精霊の姿はなく、青白い月の光がこうこうと輝くばかりであった。
 やがて歳月は流れヤマハリゾートつま恋「森林の湯」として再び世に現れたこの温泉、入浴中にフゥ~と『つま恋の精霊』が現れたという、人恋うる寂しき男性が後を絶たないらしい。
 あなたもあのC11形蒸気機関車の走る大井川鉄道への鉄ちゃん旅の帰途にでも、一度足を運ばれてはいかが…。
no.003_2no.003_5
no.003_3no.003_4
上段左◎五和~神尾 右◎家山駅 下段左右◎埼平~千頭(2005.12~2006.05・Cr/2008.06.23)



no.002no.002へno.004へno.004