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第十二話タイトル
あっ、君そこ閉めておいてくれる?


はい。 ばたんっ



人事の私、内藤と人事部長の田口さんです。
お疲れさまです。
え~、本日皆さんにお集りいただいたのはですね、
ご存知だと思いますが、政府発表の「裁量労働制」
の適応範囲が一般職まで拡大されたんですね。
つきましては、弊社でも導入しようという
お話です。


あれ?それって1000万円以上の人が
対象ではないのですか?
僕、1000万どころか…


そうそう、そう言っとったぞ。
わしもその対象にはいるんかい?


ええ、はい。
今からそこのところを説明させていただきます。
今までは専門職の方が対象だったのですが、
今回の法案決定でですね、
一般職の方、それも1000万円以上の方が
裁量労働の対象になります。
と、同時に労使による合意があれば、
1000万円以下の人でも対象になるんですよ。


それって、おれらに適応されたら
定額働き放題ってことですかねぇ?


いえいえ、もちろん会社が指定した時間を
超えた分は残業代をつけることになっています。


それって何かメリットあるの?


はい、時間の制約がなくなります。
たとえば、その日の仕事が予定より早く終われば、
個々で判断していただいて、昼3時に
帰宅するといったことが可能です。
朝も少し遅めに11時に出社などと いうことも。
今からお配りする契約用紙にね。
個々でサインと印をおしていただいて、
それから…


ちょ、ちょっと待ってください。
まだみんな制度に納得したわけじゃないですよ。
これは絶対ですか?



ええ、それはもちろん任意です。
とりあえず契約書まわしますね。
あと、合意の方の中から、
代表者を一人きめてください。



……。



おい。どうする?いいのこれ?


早く帰れるんならなぁ…う~ん。



私、サイ ンしようかな…
帰りいつも遅くて友達と約束もできないもん…



…じゃぁおれも。内藤さん、本当にこれ早く
帰ったりできるんですよね?



ええ、もちろん。「仕事さえ終わらせれば」ね。



おれはいいわ。やめとく。



ほう、西村さんどうしてですか?



なんかこれあまりいい評判きかんからな。
定額使い放題になるって。



そんなことにはなりませんよ。
社長からも全員参加するようにと
指示がきています。どうされます?



う~ん、ちょっと考えたいなぁ。



いえ、今考えるのはかまいませんが、
この会議中にご判断いただきます。
社長に提出する予定になっていますので。



西村さん、とりあえず入っておいたら?
サインしないとまた社長室に呼ばれるよ…



でもなぁ。任意なんだろ?



西村さん、弊社の現状ご存知ですよね?



それはわかってるけど…



もうこれにサインしてもらえないと、
お給料を減額するとかボーナスは
なしにするとかしかないんですよ。
お願いしますわ!



…。納得いかんなぁ。



西村さん!!
どうするんですか?!(怒)
サインするの?しないの?(豹変)
ばんっ!!



まぁまぁ、内藤くん。
なぁ、西村くん。
西村くんも社歴が長いからわかるだろ?
我が社の現実。子供じゃないんだから。ね?
そこんとこ考えてくれよ。
サインしなくてもいいけど、
今後の将来の査定にも影響でるよ。


……。



納得いかない人もいるようだから、
今から一人づつ合意するのか
合意しないのかを発言してください。
納得いかないのなら、その理由も。
はい、まずは東さんから!



え?わたし?
う~ん、まぁ合意します…



木村くん



え?あ?いや…。サ、サインします。



山崎くん



う~ん、サイン…します。



野上さん


やります。サインします。




…最後に西村さん


し~~~~~~~~~~~~ん……



…。サインしますわ。



決まりですね?異論ありませんね?
では契約書まわしますから、
サインと印鑑お願いします。



(…ぼそぼそ、無理矢理だよなぁ…)






幾日がすぎて…


お先に失礼しま~す。



あっ、おいおい、 野上さん、もう帰るの?
まだ昼の3時だよ。



あっ課長、私、裁量制なんで!



いや、それはわかってるけどさぁ。
今朝渡した資料作成終わってるの?



ええ、係長にもチェックしてもらって、
承認印いただきましたが?



みんな、まだやってるのに帰るの?
そんなにヒマならこれ手伝ってよ。



…。ええ~っと…はいっ。わかりました。
(今日はレディースデイなのに…
 映画はじまっちゃうじゃん…)






それから1週間…



さてそろそろ帰りますわ。
お先っ!



あっ西村くん!



はい、なんすか?課長。



うん、ちょっと。ちょっとこっちで話せるかな?


はぁ…



閉めといてくれる?

ばたんっ




君、ここ3日ほど毎日定時に帰ってるじゃないか。
朝も遅いようだけど、体調悪いのか?


いえ、すごぶるいいですよ。
課長こそ疲れてません?


わたしのことはいいよ。
毎日定時に帰るってのはどうかねぇ。
仕事がすいてるのか?


だって、裁量労働でしょう?
今までだって、たいてい定時までには
仕事終わってたけど少し資料整理したりして
帰ってたんで夜遅くなったりしてましてん。
俺、パワーポイント得意なんすよ。
だから、5時間もあればいつもの営業の
プレゼン資料はできますからねぇ。


君、勘違いしているようだが、裁量労働は、
「毎日早く帰っていいってことじゃない」ぞ。
最初にとりきめた 時間があったろう。
最低夜8時まで残業するとみなした金額を
給料にのせとるんだよ。


ええ、知ってますよ。
「みなし残業時間」でしょ?
残業したとみなしてつく給料ですよね?
だから、早く帰っても残業したとみなすということ
じゃないんですか?


そうかもしれんが、会社としてはだな。
やはり
「夜8時までは最低いてほしいという意味」だよ。
早く帰れるんなら、仕事またわたすし。


それじゃぁ、裁量制の意味ないんじゃないですか?
今までと変わりませんやん。


君、組織の 意味ってわかってるか?ん?
我々は「グループで動いている」んだよ。
チームなんだよ。
渡した仕事が終わったからといって
早く帰るやつがあるか!


じゃぁ、どうすればいいんですかね?
今から何かありますか?


今日は特にないよ。データの整理でも
して帰りなさい。


データの整理は毎日してますって。
課長のパソコンのウイルスチェックも
データのバックアップも、
僕がしてるじゃないですか。


言い訳はいいよ。そんな態度じゃ考課にひびくぞ。
とにかく20時まで はいてほしい!
話は以上だ。


……。





おはようございま~す!

おはよう。


(…ねぇ、山崎くん、
 今朝の課長からのメールみた?ぼそぼそ…)

(みたみた。毎日20時までは絶対いろって
 やつだろ?裁量労働制は
 どうなったんだよって感じ。ぼそぼそ…)


おーい、西村くん! 西村は?


西村さん、さっきまでそこにいたんですけどねぇ。


そうか、彼は3日ほどの徹夜明けのはずだ。
先週たっぷり短納期の仕事わたしておいたからな。
勝手に帰ったのか?けしからんな。


課長、それいつも外注にだしてるやつ
じゃないですか。
西村さん一人でなんて無理ですよ。


なぁにこれもあいつにはいい薬だよ。
裁量労働制をたてに楽しようとするから
少し勉強させてやったんだ。


(ひでぇ、丸3日徹夜かよ。
 それで残業代なしだぜぇ。
 どうりで目の下にくま作ってるはずだわ…
 ぼそぼそ)


君らも、裁量制なんて忘れろよ。
そんなものは「形だけ」なんだよ。
今、我々はふんばりどころなんだ。
「不屈の奉仕精神」でのりきれ!
しっかりついてきた者には、
俺が週末の金曜日飯をおごってやる。


(え~また土曜の朝までコースかよ。
 のめねーから苦痛なんだよなぁ)

(課長いつも酔って私のこと下の名前で
 呼び捨てするしやたら触るし
 飲み会は行きたくないわ…)


とにかく外注コストも下げたいんだ。
西村の仕事を手分けしてくれ。
今日は全員徹夜だ。

(え~~、私、今日彼氏とお泊まりなのに~)

(ちぇ、ネトゲの続きやろうと思ってたのに…)

(おれ 、昨日も遅かったから
 今日は早く帰りたいんだよなぁ。
 これで残業代なしかよ)

ぷるるるる、ぷるるるる


はい!販売促進部です。
え?課長ですか?
わかりました。

課長!課長!社長室からお電話入ってますよ。


おぅ、なんだろ?

はい、かわりました、小西ですが?
はい…はい…。
ええ、西村くんは今日は帰ったみたいです。
ええ…えっ? 労働組合ユニオン?
わたしは存じあげませんが…
とにかく一度そちらに伺います。
ちんっ

課長?どうされました?


なんだろうな。労働組合ユニオンとかいうのが
西村の代理できているらしい。


労働組合?
うち、労働組合なんてありましたっけ?



こんな小さい会社にあるわけなかろう。
とにかく行ってくる。
おい、みんな、さっきの仕事、
明日の朝までに仕上げとけよ!


……。