ホームへ創作実話劇場タイトル作者紹介ページへ
罫線

第十一話タイトル
え~と、青田さん…ですね?
私ね、「導きの会」支部長をしています、西田(に・し・だ)といいます。
今日は誰に導かれてきましたか?

え?  いや、道ばたでそこにいる女の子が一緒に「いいところ」にいかないかって…
ついてきたらここに…


彼女は、マハラージャ・ミロビッチ・美智子さんです。
あっホーリーネームね。彼女優秀なんですよ。


…ざばぁ~…ポクポクポクポク バンっ!


びくっ!
な、なんの音ですか?



ああ、あれね、「水行」といってね。信者の身体に巣食う悪霊を追い出す儀式なんですよ。
あっ、まぁ気にしない気にしない。コーヒー飲みますか?
緊張しないでリラックスしてくださいね。


はぁ…ここはどういうところなんですか?


青田さんは今、非常に難しい問題を抱えておられますね?
どうですか?


え? ええ、まぁ…父親がね…なんでそんなことがわかるんですか?


…ざばぁ~…


あなたから出る「気」が全て教えてくれるのですよ。
私たちは、偉大なる大河原指導者のすばらしい教えで、
人々の不幸を光へと導くのがつとめです。


はぁ…


青田さんね。今日時間ありますか?
学生さんですよね?
ちょっと隣の部屋でね。ビデオを観てもらいましょうか。


え? なんのビデオですか?


まぁまぁ、一度観てくださいよ。
これ観たらね、人生変わりますよ。
私もね、借金だらけで毎日追われる生活したり、
路上生活したりしてたんですよ。
それがこれを観て、パチン!とはじけましたね~。目が覚めましたよ。


へぇ、そんなもんすか…


あっ、美智子さん、ビデオの準備してあげて。


青田さん、こちらへ…


いや、僕 帰りたいんですけど。


まぁまぁ、ビデオだけでも観ていってくださいよ、青田さん。
大河原指導者の「ありがたい言葉」ですから。
ね、30分だけ。


う~ん、じゃぁ、ビデオだけなら。


ヘッドフォンしてくださいね。


ヘッドフォン? なぜですか?


指導者のお話に集中してもらうためですよ。
一言一言に重みがありますから聞き逃さないでください。


はぁ…




………(視聴中)




終わりました。


お疲れさまでした。どうでした?!


う~ん、そうですね。
良い事言ってるなとは思いますが…
まだよくわかりません。


このビデオを観れる方はなかなかいないんですよ。
青田さんは今日本当にラッキーなんです。ねぇ美智子さん。


うらやましいなぁ。私なんてまだ入信してから1回しか観てないんですよ。
大河原指導者のお顔を何度も見たらもったいなくて。
青田さん、これはすごいことなんですよ~♪


もういいですか? 僕、明日試験なんで帰らないと。


青田さんね。指導者の言葉がわからないのは、まだほんの入り口に 入ったからなんですよ。わからなくて当然なんです。
入信すれば必ず光は見えてきますよ。幸せになれるんです!
ここにね、入信登録書がありますから。お名前とご住所とね…


え? 入信? まだ僕なにも入るなんて言ってませんよ?!



え? どうしてですか? 今の指導者のビデオ観たでしょう?
当然入信されるでしょう?!


いえ、僕 別に興味ないですから。


青田さん、あなたの明るい未来はこの入信登録を
記入するところから始まるんです。
せっかく縁があって、
こうやって私たちと知り合えたのも運命なんですよ。
大河原指導者の導きが私たちをひきあわせたんです。
申し込みだけでもしましょうよ。
書いてくれたら今日は車でご自宅まで送らせますから。


いや、僕 本当に宗教とかは興味ないんです。


……。


美智子さん、そこ閉めといてくれる?


はい、支部長…(ばたんっ)がちゃり


あ、あと幹部の方呼んできて。


はい…




………。(沈黙沈黙沈黙)




がちゃり。

あっ、お疲れさまです。
谷総本部長!
青田さんです。入信に「迷い」があるようです。
よろしくお願いします。


あら~、こんにちは。いらっしゃ~い。青田さんね?
おばちゃん、青田さんに会えてうれしいわ~
それで? 青田さん、学生さん? 入信されないの?



え? いやぁ、宗教全然わかんないしねぇ。
実家も神道だし。


それはいいのよぉ。ご実家はご実家。あなただけ導きの会に
入信すればいいじゃない?


宗教は普段あまり関係ないんですよね。


あら、そんなことないのよぉ。
青田さんもクリスマスするでしょう?
結婚式に参加したことはないかしら?
人間誰でも最後は死ぬのよ。
葬儀はしない?
みんな神様が関わっているのよ。
導きの会は、大河原指導者がおられてお導きくださるのよ~


そうそう、私もね。最近までずっと母親がガンで入院してて
大河原指導者がお見舞いにきてくれたの。
そのとき、母の手にふれて、「大丈夫、よくなりますよ」
って言われて、その数週間後、検査でガンが小さくなってるって
先生が驚いたのよ。奇跡だって!


んまぁ~!! よかったわね~、美智子さん!
指導者に感謝しないとね。


僕も、大河原指導者にお会いしたときに「今日は一日天を見なさい」って
言われて空見ながら歩いてたら、工事現場で上から落下物がすぐ
近くに落ちて…。上みてなかったら当たってましたよ。


まぁ、西田支部長も! 指導者の「予言」のおかげね。
大けがするところだったもんね。
ね? 青田さん、お試しでもいいから入信してみない?
お友達や彼女もできるかもよ。
バーベキュー大会とかボーリング大会も
毎月開催されてるから 若いんだし参加したらいいじゃな~い♪


ええっと、入信したら何かしなくちゃいけないんですか?


ええ、簡単なことよ。毎日、朝夕に大河原指導者の写真に向かって
「おつとめのことば」を唱えるだけでいいの。
あとは、月2回日曜日の支部会に参加よ。


まぁ、バーベキューくらいなら参加してもいいですけどぉ…


気軽に入ればいいのよぉ、青田さん。
別に難しいことじゃないんだからぁ。


う~ん、やっぱり時間があまりとれないし…いいです。


あら、どうしてぇ?学生さんもいっぱい入信してるわよ~
○×大学でしょう?○×大学の学生さんもいたわよね?
美智子さん。


はい、信介くんが…


そうそっ! 信ちゃん!
あっ、信ちゃん、今 支部に来てたから美智子さん、呼んできて!


はい…


がちゃり、失礼しま~す。
入信ですか? 他にも会員つれてきましたけど。



あっ 信ちゃん! そう、入信よ。みんな入って。


青田くんですよね?
同じ学校ですね。
僕は、経済学部の倉田信介です。
面白いよ~。入信しようよ。
何が趣味なのかな?


え? まぁカラオケとか…


カラオケ? ああ、月3回くらいみんなで
行ってるよなぁ。


おお、いってるいってる! 昨日は盛り上がったよなぁ。


そうそう、カラオケとかボーリングとか。
今度バーベキューを河川敷でするから青田さんこない?
女性会員もいっぱいくるよ。
サークルみたいなもんだから。


う~ん…しかし、いっぱい人が集まりましたね(笑)


そうよぉ、みんな「青田さんのために」集まってくれたのよ。
一緒にやろう? おばちゃんに任せて! ね?


…いや、やっぱ遠慮しときます。





……………。し~~~ん。
(しばし沈黙とにらみ合い…)




…なんでかなぁ、青田さん…
これだけみんな熱心に青田さんのこと「想って」、一緒にやろうって
言ってるのよ?


単に興味がないだけなんですよ。
友達なら間に合ってますし。
また じっくり考えてからでもいいですか?


青田さん、じっくり考えたらどんどん「邪念」が入って、
入信する気力が萎えてしまうのよ。
こういうことは「直感」で決めないと!!


いや、直感で決めてるんですけどねぇ…
とにかく今日は帰りたいんですよ。


う~~ん、じゃあね。この入信登録用紙に
お名前と住所と
電話番号だけ書いてって。
今日はそれだけでいいから。
これだけたくさんの人が青田さんのために
集まってくれてるのよ~。
彼らの「想い」を無駄にしないで! ね? ね?
青田さんが書くまで、おばちゃん今日は青田さんを帰すわけにはいかないわぁ。


う~~ん、そう言われてもねぇ…


えっえっえっ(泣)


あら、美智子さん泣いてるの?


…だって私達の「気持ち」が青田さんに伝わらないのが
悲しくて…えぐっえっえっ(うるうる)



ほら~見なさい、青田さん!
美智子さん泣いちゃったわよ。
女の子泣かせてどうするの?
青田さんが決めてくれないからよ!



…名前と住所書けば帰してくれるんすか?


そう、電話番号とね。
また明日でも夜何かごちそうするから食べながらお話しましょう。



…じゃぁ書きますわ…


あら~うれしい! 西田、用紙!


はっ!


かりかりかり…
……。
はいっ、これでいいすか?


青田さん、ありがとう~。おばちゃん最高よ!
人生が変わる第一歩なのよ~
おめでとう!!


おめでとう~~~!!! わ~~~ぱちぱちぱち~~~!


入信あめでとう!!!!
大河原指導者! 青田さんをお導きくださり
ありがとうございます!!(泣) ハレルヤ!!


あの…もう電車なくなるんですけど…


あっ心配しないで!
誰かに送らせるわ。
信ちゃん! 今日車できてたっけ?
青田さんをちょっと送ってあげてくれる?


はいっ! よろこんで~~!! 青田さん、じゃあいきますか。


また明日ね、青田さん。おばちゃん待ってるわ。
電話するからね。


はぁ…



ばたんつ!
ぶるるん、ぶう~~ん…






ちゅん、ちゅん、ちゅん…


昨日の青田さん、もうそろそろ起きてるかしら。


まだ早いすよ、総本部長。


こういうことは早いほうがいいのよ。
気が変わってしまうわ。
「入会金の50万円」も早く回収しなくちゃ。


学生ですからねぇ。50万払えますかねぇ。


払えないのは百も承知よぉ。
でももう『契約書類にサイン』してるのよ。
またいつもの「無人キャッシュローンでカード作らせる」わ。


青田さんの番号は?


あっ、その机の上です。


ピポパポ…


「…お客さまのおかけになった番号は現在…」


あら? おかしいわねぇ。ピポパポ…


「…お客さまのおかけになった番号は現在…」


……。  あの子…うその番号書いてるわ…


え?

至急、信ちゃんに昨日青田さんを送った住所にいって
調べさせて!



はいっ!




総本部長! 総本部長!
青田さんのアパート!
全然別のオヤジが住んでいるようです。
信ちゃんから連絡が!


あのガキ~~…くわせものね! 西田!!
また美智子さんに駅前までいって
学生か気の弱そうなサラリーマンを勧誘させてきて!


は、はいっ総本部長!



今月ノルマまで、まだあと5人足りないのよ!
達成できなかったら、大河原指導者に
また罰金食らうわよ!
誘惑でもなんでもさせて、5人以上連れてきてちょうだい!


はい! 総本部長!
美智子さん! 悪いけど今日も頼むわ!


あっごめんなさ~い、支部長ぉ
今日と明日「同伴出勤」なの~
それとぉ…昨日つれてきた人の分、
導き手当まだもらってないんだけどぉ


……。