杜若線
時雨徒然帳目次ページへ 杜若タイトル作者澤田圭果プロフィールページへ


 うららかな初夏の日。太陽の微笑は、優しく窓を通して、教室に流れ込んでいる。運動部の生徒たちは、昼の練習のため外に出て行き、残った生徒もおとなしい人ばかりで、静かな昼休み。
 小夜子は、窓側の席で、右手に文庫本、左手に携帯を開いていた。真っ直ぐに伸びた髪は、緞帳のように垂れ下がり、太陽の光も、クラスメイトの接近をも拒絶しているかのよう。そしてその漆黒の緞帳に隠れた顔は、小さな携帯の画面お奥にある、茫洋とした物に魅せられて輝いていた。
「サヨコー。何見てんの?」
どこまでいっても憎めないふざけた調子の声。小夜子がおもむろに頭をもたげると、緞帳はさらりと流れ、白い顔が現れる。
「別に、たいした物じゃないよ。」
小夜子のにべもない、返答に怯む様子はない。小夜子の本心がそんな浅いところに現れてこないことを知っているから。
「隠さなくったっていいじゃない。携帯覗いてたんでしょ?あたしずっと見てたんだから。」
話している間、彼女の顔は拗ねたような顔から、得意げな顔になり、また元のにこやかな顔に戻る。猫の気分のようにころころと変わる表情が豊かに感情を表現している。小夜子が呆れて下を向く、再び緞帳がたれ、中からくぐもった低い声で、
「もう、知ってるなら、わざわざ聞かなくてもいいじゃない。」
そういいながら、小夜子は携帯を突き出した。一瞬ぱっと輝いた少女の顔は、すぐに怪訝なものになった。予想を大きく裏切る展開に戸惑っていた。
「うーん。えっと、これって花だよね?確かに綺麗だけど、お花好きだったっけ?」
「そーでも、無いんだけどね。まあ、これは特別かな。」


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